世間は世間、大したもんじゃない、つまりは舞台だ、誰もが一役演じなきゃならん

 恋よ、抑えて、有頂天になってはだめ、歓びの雨は静かに降らせて

 月が明るく輝いている。ちょうどこんな夜、かぐわしい風が優しく木々にくちづけし、音も立てずに吹き過ぎた

 心に音楽を持たない人間、美しい調べにも心を動かされない人間は謀反、陰謀、略奪にしか向いていない


 これらはすべて、『ヴェニスの商人』の登場人物たちの美しい詩の言葉です。それぞれ別の場面で口にされますが、こうして並べてみると、言葉と言葉のあいだに不思議なつながりが生まれて、ひとつの世界が目の前にたち現れてくるようです。



 世界は、物質に満ちている。グローバルにモノや情報が流通する現代に生きる私たちにとって、それは真実かもしれません。 けれど、真の想像力はもうひとつの可能な世界を信じることができます

 世界は詩に満ちている――それは通り雨のように、優しく、唐突に私たちのこころに降りそそぐのです。

 『ヴェニスの商人』では、宗教や愛という魂の問題の問題とともに、あらゆるものの価値基準である貨幣が大きな存在感を放っています。しかし、即物的な価値観が優先されがちな商業都市を舞台としながらも、シェイクスピアは詩の言葉で巧みに、もうひとつの世界を織り上げてみせるのです。


 16世紀のイギリスに生きたシェイクスピアの詩に寄り添ってその豊かな可能性を引きだしながら、クラシカルでポップで破天荒な創作をつづけてきたカクシンハン。

 私たちはポケット公演『ヴェニスの商人』期間中の11/30(金)に、けっして汲み尽くされることのない創作の源泉に立ち返る特別イベント、「シェイクスピアの詩と出会う」を開催します。

 このイベントは演出家・木村龍之介によるシェイクスピアの入門講義から、カクシンハン所属の俳優、ゲストのDavid John Taylorさん(ビジュアルアーティスト・ギタリスト)、サグワさん(ラッパー・YouTuber)による、朗読セッションを開催します。


 なぜ、朗読セッションなのでしょう?

 言葉はたんに意味を伝えるものではなく、美しいメロディーやリズムをもったひとつの音楽でもあります。特にシェイクスピアの戯曲の原文は、弱強五歩格(iambic pentameter)などの韻律で書かれていて、翻訳でもその音のリズムを感じることができます(「シェイクスピアの台詞が持つ韻律の秘密/デヴィッド・フリーマン&グレゴリー・テイラー」に詳しいです、英語ですが日本語訳も出ています)。

 今回のイベントは、別々の分野で活躍するクリエイターたちが生身でぶつかり合い、化学反応を起こして、シェイクスピアの不滅のメロディーを響かせる試みなのです。それは、劇場という、からだとからだが、魂と魂がある「瞬間」をつくりあげることのできる特別な場所で開催されることに意味があるのかもしれません。


 今回のスペシャルゲスト・サグワさんとカクシンハンの組み合わせに驚いた方も多いのではないでしょうか? しかし、シェイクスピアが私たちを結びつけたのです。

 サグワさんは、ヒップホップユニットAmaryllis Bombなどでラッパーとしての活動をしています。



 じつは、シェイクスピア劇はこれまでも多くのラッパーを魅了してきたのです。その背景には、さきほど書いたように、彼の台詞にある独特なリズム感があります。

 調べてみると、「シェイクスピアは最初のギャングスタ・ヒップホップアーティスト」や「ヒップホップとシェイクスピア?」)などの動画がたくさんあるのがわかるでしょう。

 そして、Youtube。

 みなさんご存知のように、サグワさんはチャンネル登録数47万人の人気YouTuberです。映画やテレビといった従来のメディアよりもずっと観る者に近く、みずからの身振り手振りで日常を切り取ってみせるYouTuberの想像力は、世界はひとつの「劇場」であり、私たちはみな役者であるというシェイクスピアの世界観(theatrum mundi)とどこかでつながっています。日常をべつの姿でみせることはひとつの「詩」のいとなみなのです。


 古典と現代がクラッシュしたとき、どんな詩がつむぎだされるのか。その肌触り、旋律はまだ誰にも予測できません。

 でも、一日限定の想像力あふれる時間は、ほかでは味わえない特別なものです。

 世界は詩に満ちている———あなたはそれを信じることができるでしょう。

 みなさんぜひお見逃しなきよう!


2018.11.26 Mon.


サグワさんのHip-hopユニットAmarylis Bomb

サグワさんのYouTube公式チャンネル「サグワダイアリー」



カクシンハンPOCKET09

「ヴェニスの商人」

2018年

1128日 (水)〜122日 (日)

原宿VACANT
(渋谷区神宮前3-20-13)

演出:木村龍之介

翻訳:松岡和子

作:シェイクスピア

出演:

河内大和

真以美

岩崎MARK雄大

(以上、カクシンハン)

石毛翔弥(スターダストプロモーション)

鈴木真之介(PAPALUWA/さいたまネクスト・シアター)

白倉裕二

室岡佑哉(仕事)

David John Taylor

一般自由席4,200円 + 1 drink

U22チケット3,000円 + 1 drink

(全席自由・税込)

チケットは

10月7日(日)より発売中です。